東京タワー 江國香織

2007/10/30 [火] 19:57 このエントリーを含むはてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録
東京タワー
東京タワー江國 香織

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おすすめ平均 star
star映画とは違った詩史さんの造形に深い感動
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大学生の透は恋の極みにいた。年上の詩史と過ごす甘くゆるやかなひと時、世界はみちたりていた。恋はするものじゃなく、おちるものだ。透はそれを、詩史に 教わった。一方、透の親友・耕二は、女子大生の恋人がいながらも、蠱惑的な喜美子に夢中だった。彼女との肉体関係に…。夫もいる年上の女性と大学生の少年。東京タワーが見守る街で、二組の対極的な恋人たちが繰り広げる長篇恋愛小説。


透と耕二は高校時代からの親友で、まったく正反対の性格の二人。17歳の頃から、それぞれ年上の人妻と恋愛関係にある。その後大学生になった二人は、異なる価値観で年上の人妻との恋を続けていく。


美しく、ふわりと軽い文章で紡がれる、気持の良い音楽に浸っているかのような一冊。軽くて、あっさりと、読み終わると何も残らない作品にも思えるが、その軽さの中に、実はすごい表現や技巧がさりげなく織り込まれており、何度も読み返したくなる。

異常な程、欲が無く、詩史という女性以外には、冷酷なまでに興味を持たない「純愛」に生きている(ように見える)透と、若い彼女もいるくせに「年上の子供のいない人妻は気楽」という打算的な耕二が対照的に描かれる。「純愛」に生きた透が欲しいものを手に入れ、打算的に生きた耕二は全てを失い破綻する、という物語にもみえるが、これは昨今流行った「純愛」というものが、いかに好色なものか、エロティックであるかということを描いた作品だと思う。


受動的で、関わることを避けてきた透が、痛々しいほど執着する詩史という女性は、お金に余裕のある、退屈した優雅な人妻で、どこにでも、ありふれた奥様のようにも見える。はたからみたら若く純粋な透を弄び、支配する利己的な女。だが透の目を通して描かれる彼女は異常なまでに、崇めたてられ特別な人とされているため、そこまで嫌味に映らない。客観的にみると、実にわがままでひどい行動を透に対して働いている。けれど、人の魅力というのはそういう事実とは無関係なところにあるのが不思議だ。その詩史のわがままな行動を後ろで手を引いているのが彼女の夫の存在だ。登場シーンは少ないながらも、常に詩史の影として存在感を発揮している。透との短い逢瀬を、夫との約束や予定外の行動で、あっさり切り上げ、透を置き去りにしていく。


透は苦しい思いをしながらも、そこに幸福を見出す。「苦痛を幸福に変える術」。散々待たせじらし、少しご褒美をやり、あと少し、というところで苦痛を与える。これは非常に倒錯的な、SMに近いような関係ではないか。


精神的なものほどいやらしいものはない。純粋で健気に見えるMの透だが、マゾは実は不遜な存在だ。Sに対してああしてこうして痛めつけて欲しいと要求する。MはSに支配されているようでいながら、実は支配しているのはMな場合が多い。SとMが反転する、主体と客体が入れ替わるような瞬間。透は、わがままな年上の人妻に弄ばれている、謙虚ないたいけな青年のように見せかけて、物語の終盤でこんな不遜な台詞を吐く。

「かわいらしいというだけで、恋に落ちるなんて、みんななんて謙虚なんだろう」
これは、自分で選んだ支配者に対して絶対的な優越感を抱いているプライドに満ちた言葉だ。

『東京タワー』は岡田准一・黒木瞳主演で映画化もされ、切ない純愛ものと思われているが、ただのかわいい純愛小説ではない。
男女の危険な世界を孕んだ、優雅で野蛮な「純愛小説」なのだ。
TB:本を読む女。改訂版さん
  ぶんこやさん

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from まろ茶らいふる 2007.10.31 [Wed]

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