マークスの山 高村薫
『マークスの山 高村薫』
南アルプスの山中で起こった一家心中事件のたった一人の生き残りの少年が目指したマークスの山とはいったい何だったのか。同じ時期、同じ南アルプス北岳山麓で、起こった不可解な殺人事件。犯人はあっさり捕まったかのような感があったが、事件にはもっと深い謎がひそんでいた。
後の『照柿』『レディ・ジョーカー』に続く合田雄一郎刑事シリーズの第一作にして直木賞受賞作。このミスとか文春の一位もとったベストセラーですね。2003年に刊行された講談社文庫版は作者の全面改稿が施されており、ほとんど新作といっていい。旧作と比べ、今作は犯人の動機や伏線がわかりにくくしてあり、捜査のディテールがより緻密になっている。私は動機の不明瞭さというのは洗練だと考えているので、この改稿には賛成だ。もちろん両方読み比べてお得感も味わえる。どちらにしても面白い作品であることには違いない。ぐんぐん物語に引き込んでいく高村薫の筆力はすごい。硬質な文体も彼女の独特の持ち味だ。
主人公の生き残りの少年水沢裕之は、過去の記憶をほとんど無くしてしまう心身症を患っていた。赤いものを見ると盗みたくなるという衝動に突き動かされ窃盗に入った先で、自身がかつて体験した南アルプスに関係のあるメモを発見する。そこは、現在は社会的な名士となっている男達がかつて犯した犯罪が細かくメモされていた。これを利用すれば、金持ちになれるんじゃないかと、名士達を脅迫し始めるのだが、水沢裕之が心身症を患っているだけに、通常の脅迫事件にはない辻褄の合わなさが捜査の混乱を招いていく。
脅迫された側は、自分たちの犯行を隠すために今の立場を利用して、警察の捜査に圧力をかけてくる。それを是とせず、真実を明らかにしようと突き進んでいく刑事の執念と相まって物語全体は緊張感を増し続けていく。
作中出てくる南アルプスの北岳は、富士山に次ぐ日本第2の高峰。結末で犯人が冬の北岳頂上を目指して不可解な逃走を遂げるシーンは圧巻。
この水沢の哀しさが痛切で、やりきれない感情でいっぱいになる。「警察の関知しない領域の深さを覗いて戸惑い、無為に足が止まる。…(中略)加害者も被害者も捜査員も、誰も救われる者がいないのが犯罪だ。」と合田は言うが、まさに。不条理でしかないのが犯罪だ。
ところでこの合田雄一郎刑事シリーズではもう一人重要なキャラクター、加納祐介がいる。この二人は名前の間に×を入れるのが好きな読者達(笑)では人気のコンビである。『レディ・ジョーカー』でまさかあんなことになるとは・・・いいのか!高村薫!!という感じ。でも確かにこの二人にはかき立てられる何かがある。男同士の組み合わせにときめいちゃうという気持が良く解る。合田刑事のスニーカーの白さがまぶしいね。羽海野 チカが同人誌描いていたらしいが、ちょっと読んでみたい。彼女は病んでるところが見え隠れして、作風は全然違うが狂気を感じさせる点で共通点があるかも知れない。
マークスの山(上) 講談社文庫
マークスの山(下) 講談社文庫
全面改稿!!第109回直木賞受賞作 警察小説の金字塔 21世紀、33歳の新生・合田雄一郎、登場
「俺は今日からマークスだ! マークス!いい名前だろう!」――
精神に〈暗い山〉を抱える殺人者マークス。南アルプスで播かれた犯罪の種子は16年後発芽し、東京で連続殺人事件として開花した。被害者たちにつながりはあるのか?姿なき殺人犯を警視庁捜査第1課第7係の合田雄一郎刑事が追う。直木賞受賞作品。
合田雄一郎は音一つなく立ち上がった。33歳6ヵ月。いったん仕事に入ると、警察官僚職務執行法が服を着て歩いているような規律と忍耐の塊になる。長期研修で所轄署と本庁を行ったり来たりしながら捜査畑10年。捜査1課230名の中でもっとも口数と雑音が少なく、もっとも硬い目線を持った日陰の石の一つだった。――(本文より)
南アルプスの山中で起こった一家心中事件のたった一人の生き残りの少年が目指したマークスの山とはいったい何だったのか。同じ時期、同じ南アルプス北岳山麓で、起こった不可解な殺人事件。犯人はあっさり捕まったかのような感があったが、事件にはもっと深い謎がひそんでいた。
後の『照柿』『レディ・ジョーカー』に続く合田雄一郎刑事シリーズの第一作にして直木賞受賞作。このミスとか文春の一位もとったベストセラーですね。2003年に刊行された講談社文庫版は作者の全面改稿が施されており、ほとんど新作といっていい。旧作と比べ、今作は犯人の動機や伏線がわかりにくくしてあり、捜査のディテールがより緻密になっている。私は動機の不明瞭さというのは洗練だと考えているので、この改稿には賛成だ。もちろん両方読み比べてお得感も味わえる。どちらにしても面白い作品であることには違いない。ぐんぐん物語に引き込んでいく高村薫の筆力はすごい。硬質な文体も彼女の独特の持ち味だ。
主人公の生き残りの少年水沢裕之は、過去の記憶をほとんど無くしてしまう心身症を患っていた。赤いものを見ると盗みたくなるという衝動に突き動かされ窃盗に入った先で、自身がかつて体験した南アルプスに関係のあるメモを発見する。そこは、現在は社会的な名士となっている男達がかつて犯した犯罪が細かくメモされていた。これを利用すれば、金持ちになれるんじゃないかと、名士達を脅迫し始めるのだが、水沢裕之が心身症を患っているだけに、通常の脅迫事件にはない辻褄の合わなさが捜査の混乱を招いていく。
脅迫された側は、自分たちの犯行を隠すために今の立場を利用して、警察の捜査に圧力をかけてくる。それを是とせず、真実を明らかにしようと突き進んでいく刑事の執念と相まって物語全体は緊張感を増し続けていく。
作中出てくる南アルプスの北岳は、富士山に次ぐ日本第2の高峰。結末で犯人が冬の北岳頂上を目指して不可解な逃走を遂げるシーンは圧巻。
この水沢の哀しさが痛切で、やりきれない感情でいっぱいになる。「警察の関知しない領域の深さを覗いて戸惑い、無為に足が止まる。…(中略)加害者も被害者も捜査員も、誰も救われる者がいないのが犯罪だ。」と合田は言うが、まさに。不条理でしかないのが犯罪だ。
ところでこの合田雄一郎刑事シリーズではもう一人重要なキャラクター、加納祐介がいる。この二人は名前の間に×を入れるのが好きな読者達(笑)では人気のコンビである。『レディ・ジョーカー』でまさかあんなことになるとは・・・いいのか!高村薫!!という感じ。でも確かにこの二人にはかき立てられる何かがある。男同士の組み合わせにときめいちゃうという気持が良く解る。合田刑事のスニーカーの白さがまぶしいね。羽海野 チカが同人誌描いていたらしいが、ちょっと読んでみたい。彼女は病んでるところが見え隠れして、作風は全然違うが狂気を感じさせる点で共通点があるかも知れない。
マークスの山(上) 講談社文庫
マークスの山(下) 講談社文庫
全面改稿!!第109回直木賞受賞作 警察小説の金字塔 21世紀、33歳の新生・合田雄一郎、登場
「俺は今日からマークスだ! マークス!いい名前だろう!」――
精神に〈暗い山〉を抱える殺人者マークス。南アルプスで播かれた犯罪の種子は16年後発芽し、東京で連続殺人事件として開花した。被害者たちにつながりはあるのか?姿なき殺人犯を警視庁捜査第1課第7係の合田雄一郎刑事が追う。直木賞受賞作品。
合田雄一郎は音一つなく立ち上がった。33歳6ヵ月。いったん仕事に入ると、警察官僚職務執行法が服を着て歩いているような規律と忍耐の塊になる。長期研修で所轄署と本庁を行ったり来たりしながら捜査畑10年。捜査1課230名の中でもっとも口数と雑音が少なく、もっとも硬い目線を持った日陰の石の一つだった。――(本文より)
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