ぼくの外見はたいそうさえなくて、自分でもそのことは良く解っていた。背が低く、足の短さときたら驚異的だった。猫背で、太っていたし、なにしろ鼻が大きすぎて、それが顔のすべてのバランスを崩していた。そして、分厚いレンズの眼鏡。でもぼくは知っている。女性に縁がなかったのは、この容姿のせいではない。自分の容姿に自信がないという劣等感が、ぼくのまわりに嫌な空気を漂わせていたために、不本意な人生を送ってしまったのだ。ぼくが劣等感を覚えず、我を忘れて行なったのは、彼女を追いかけて結婚を申し込んだことだけだった。
山田詠美「唇から蝶」 『120%COOOL』収録
友達をつくるコツは我を忘れることだと聞いたことがある。自意識を解放することで「嫌な空気」を散らすことができるのかもしれない。