音楽家をめざしたのっぽの少年の成長物語。「とん、たたん、とん」と麦ふみのリズムを足で刻む小さな人・クーツェや、打楽器だけの演奏団、素数に夢中な父、町に厄災をもってくるやみねずみ、娼婦に演奏を聴かせる盲目の天才チェリスト。出てくる人物や、ディティールひとつひとつが、魅力たっぷり。
ものすごく個人的な感想だが、いしいしんじさんの文章を読むと、あたたかいひだまりの中にいるような気持になる。あるいはこうばしいブラウニーのような匂いがする。そんな気がする。
いしいしんじさんを初めて知ったのは確か中島らもさんとの共著『その辺の問題』だったと思う。そのときの印象では結構ぶっとんだ面白い人という感じだったけれど、『ぶらんこ乗り』など小説作品を読んで、繊細な人なんだなあと思い直した。
先行作品からの影響、とくに宮沢賢治の世界の影響が色濃く見られるが、それがオリジナリティを逆に生み出している、と思う。オリジナリティなんて今の時代にはない、新しいものなんて何もない、なんてつまらないこと言ってる人にはこういう作品を読んで欲しいと思う。新しいものはある、と私は確信させられた。
生きていると、かなしいこともある。ほんとはいつだって笑っていたい。でもそういうわけにもいかない。でもでもやっぱり、人生っていいよねという祝福の音楽がきこえてくる。そんな、かなしくてしあわせな一冊でした。
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