小説と言っても、本書に実名で出てくる実際のバンドとのエピソードはほとんど事実であるし、ある種の音楽評論にもなっている。
ブルーハーツ、有頂天、ばちかぶり、たま。人生(電気グルーヴ)、BUCK-TICK、GO-bANG'S、ラフィンノーズ、ミッシェル・ガン・エレファント、ユニコーン、人間椅子、レビッシュ、エレファントカシマシ、FAIRCHILD,JUN SKY WALKER(S)、カブキロックス、ブランキー・ジェット・シティ、レッドウォーリアーズ、ボ・ガンボス、X(X JAPAN)・・・。以上書き連ねたバンドの名前を目の前にすると、少しばかりこそばゆい気持を思い起こさせるだろう。といっても私は、もうちょっと後の90年代前半から後半の音楽を聴いて育った世代であるが。
イカ天によるバンドブームの攻勢に、翻弄されたバンドマンたちもいる。何ものかになりたくて、でも将来の不安でいっぱいだったモラトリアム空間から、バンドブームによっていきなり、有名性と人気を得てしまった若者たち。その人気はブームが過ぎ去ったあとの没落ぶりをみると、一時の幻だったのかもしれない。それでも実力あるものは現在でも残っているし、そのころの音楽を懐かしく愛しているファンもいるだろう。
音楽をジャンルで分類することこそ、無意味でバカバカしいこともないのだけれど、筋肉少女隊のその立ち位置を敢えて分類してみると、なぜオーケンが当事者でいながら傍観者のようにこの本を書けたのかわかるような気がする。そうした分析をするときにこの『リンダリンダラバーソール』と併せて読みたいのが『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』(市川哲史)だ。それによると、オーケンは「V系が誕生する以前の、日本のアンダーグラウンド・ロックシーンは「体育会系」ジャパメタと、「文化系」ニューウェイヴに二分される。大槻はその後者に属するナゴム・レコードで活躍していた」とある。「文化系」村と「体育会系」村を行きつしつつ、両方と接点を持ちながら、優秀な観察者であったオーケンが作家になったのはものすごく納得できる話だ。ただの当事者では物語の主人公にはなれても、作家にはなれないからね。
さて、今までは本書のテーマであるバンドについて主に書いてきたが、もうひとつのテーマはバンドに群がる女の子たちの物語だ。文化系喪男だった大槻氏は、バンドブームによって一転モテ街道を歩み、ラバーソールを履いた美少女「コマコ」と付き合い始める。
「コマコは、『あたし、お祝いするっ!』と言って、人でゴッタ返す246の橋の上で、拳を天に突き上げて、ブルーハーツの『リンダリンダ』を歌い出した。ラバーソールをバタバタ鳴らしながら何度も何度も飛び跳ねた」
バンドマンにしても、女の子たちにしても、まだ若く、先が見えず不安でいっぱいだった頃。なにものかになりたいのに、自分が表現したいことなんて、本当に自分の中にあるのだろうかと悩んじゃったりする。
バンドの女の子たち、グルーピーだとかバンギャだとか言われる女の子と言えば映画『あの頃ペニー・レインと』を思い出すが、あの作品にも通じる、切ない女の子の叫びが本書で私が一番心撃たれた部分だ。
バンギャというか、グルーピーというか、まあ本書の通りぶっちゃけると「ファック隊」のある女の子のこんな台詞が私を泣かせた。
「ってゆーか・・・ジーナだって本当はバンドマンの彼女になりたいわけ、ってゆーか女のコの多くはみんなそう思ってライブ観に行ったりしてるわけ。でもダメなコがたいがいなわけじゃん?ってゆーかジーナもダメだってことわかってるし、彼女になれるコは私たちと違ってなんだかスゴイところがあるってわけでしょ。ジーナは尊敬してる。そーゆーコを尊敬するしエライって思う。そんで、ジーナとかファック隊がダメな分、そーゆーコには幸福になってほしいと思う、ってゆーか、ジーナとかファック隊はそーゆーコになれないけれど、ジーナとかファック隊もそーゆーコも、抱えてる夢は同じなわけだから、その夢はかなえられた方がいーと思う。でないと、私たちはみんなミジメになってしまう」
この言葉になんとも思わない人は本書は必要ないかもしれない。
「ジーナとかファック隊」も、彼女である「そーゆーコ」のコマコも、バンドマンもみんな、自分の居場所が分からなくて、そして寂しい。ただ寂しい。この青春の漠然とした不安と寂しさ、それなのにどんどん時間は過ぎ去っていく、という切なさがこの本には詰まっている。まだ読むには恥ずかしい、つらいという年代の人もいるかもしれない。けれど、時間は必ず、私たちの苦い思い出も、優しく甘い味に変えてくれるだろう。この物語が必要になったときが、大人になったと言えるのかもしれない。
内容(「BOOK」データベースより)
僕らのバンドが、メジャーデビューすることになった!その頃、日本はバンドブームに沸いていた。無名だった若者が、次々とスターになった。ライブ会場は熱狂に満ちた。でも、ブームはいつか終わるものだ。大人たちは、潮が引くように去ってゆく。誰もが時の流れと無縁ではいられないんだ。僕と愛すべきロック野郎たちの、熱くて馬鹿馬鹿しくて切なかった青春を、いま再生する。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)大槻 ケンヂ
1966(昭和41)年、東京生れ。’82年ロックバンド「筋肉少女帯」を結成。脱退後、2000(平成12)年より「特撮」のボーカリストとして活動を開始。’06年12月、筋肉少女帯の活動を再開する。またエッセイスト、小説家としても活躍。SF小説の賞である星雲賞を2年連続受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)